限定承認とは、相続を受けた人が、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐという方法です。 限定承認は、マイナスの財産(借金)の金額がプラスの財産より明らかに多い場合や、わかっていない借金が残っている可能性がある場合などに有効ですが、相続財産の状況によってメリットだけでなくデメリットになってしまう可能性もあるため、専門家に相談するなど慎重な判断をしましょう。
また、限定承認を選択する場合も、相続放棄と同じように、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に被相続人の住所地の家庭裁判所に申告する必要があります(民法915、民法924)。相続放棄同様に、やはり申し出がないと認めてもらえません。
相続人のうちの一人が認知症で判断能力に欠ける、未成年者、行方不明などの場合には、特別代理人や後見人等を選任します。 相続人が確定し、相続財産の調査も終わると、次は相続人全員で遺産分割協議をすることになりますが、以下のようなケースは、すぐに遺産分割協議ができない場合があります。
・相続人のうちの一人が認知症の症状を持っていて、分割の話し合いができない
→成年後見人の選任申立が必要になります。
相続人の中に認知症になって判断能力を欠くものがいる場合は、その者について成年後見人を選任する必要があります。選任された成年後見人は本人の財産管理や身上監護をおこない、選任された成年後見人が判断能力を欠くものに代わって遺産分割に参加します。また、成年後見人も相続人である場合には、後見監督人が選任されている場合には後見監督人、後見獲得人が選任されていない場合は、特別代理人を選任して判断能力を欠くものに代わって遺産分割に参加します。
・相続人のうちの一人が未成年者で、分割の話し合いができない
→特別代理人の選任申立が必要になります。
相続人の中に未成年者がいる場合は、親権者や未成年後見人が代理人となって遺産分割に参加します。しかし、例えば親権者も相続人となっているような場合は、親権者自身の立場と未成年者の代理人としての立場とで利益が相反してしまいます。このような場合は、未成年者のために特別代理人を選任し、選任された特別代理人が未成年者に代わって遺産分割に参加します。
・相続人のうちの一人が行方不明で、分割の話し合いができない
→不在者の財産管理人の選任申立、または失踪宣告の申立等が必要になります。
相続人の中に行方不明者がいる場合は、その者について不在者財産管理人を選任する必要があります。選任された不在者財産管理人が、家庭裁判所の許可を得て、行方不明となっている不在者の代わりに遺産分割に参加します。
相続の際、亡くなった人の意思を尊重するため、遺言書の内容は優先され、遺言によって法定相続分とは違う割合で相続人に相続させたり、相続人以外の者に遺贈したりすることができますが、兄弟姉妹以外の法律で定められている相続人には、遺言の内容にかかわらず最低限相続できる権利が認められています。それが遺留分です。 遺留分が保証されている相続人は、配偶者、子供、父母です。法定相続人の第3順位である兄弟姉妹は、遺留分を保証されていませんので注意が必要です。
遺言の内容により遺留分を侵害され、それに納得がいかないような場合には、侵害された遺留分を確保するために、遺言書により財産を相続した人に、「遺留分減殺請求」をする必要があります。
遺留分減殺請求は、相続開始および減殺すべき贈与または遺贈のあったことを知った時から1年経過するか、相続開始の時から10年経過したときは行使する権利は消滅します。
遺留分は、遺留分減殺請求をすることで、はじめて認められるものなので、故人の死後、遺留分を放棄すると判断した場合でも、改めて手続きをする必要はありません。なお、遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を得た場合に限り、相続開始前に行うことも可能です。相続開始後と異なり、生前の遺留分の放棄には家庭裁判所での手続きが必要です。
相続できる財産は決してプラスの財産だけでなく、負債も含まれます。そしてプラスの財産だけをもらって借金は放棄するということが許されないため、借金を含めて故人の財産を受け継ぐのか、それとも相続財産を放棄するのかを決めなくてはなりません。 特に、被相続人(故人)の負債が多額であった場合や他の相続人に財産を譲りたい場合などは、相続放棄を考えてもよいでしょう。 相続放棄すると故人の財産は受け取れなくなりますが、代わりに故人の負債も一切払わなくてよくなります。 手続に当たっては、相続開始の事実を知ってから3カ月以内(一般に、被相続人の死亡から3カ月以内)に家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する必要があります。 その際必要なのは被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本、被相続人の死亡の記載のある除籍謄本などですが、提出する人間と故人の関係によって必要書類は異なるので、詳しくは裁判所の情報を確認してください。
なお、誤解されている方が多いのですが、相続放棄すると相続にかかる一切の権利を失うものの、遺贈(遺言書によって、特定の人物に財産を譲ること)は受け取ることができます。 また、遺族年金など、故人の財産ではなく、死亡によって発生するお金なども、相続放棄していても受け取ることができます。
相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に,単純承認,限定承認又は相続放棄をしなければなりません。熟慮期間中に相続人が相続財産の状況を調査しても、相続の承認、放棄のいずれにするかを決定できない場合には、家庭裁判所に「相続の承認・放棄の期間伸長の申立」をすることができます。 申立時に注意すべき点として、相続人が複数いる場合には、熟慮期間は相続人ごとに別々に進行しますから、期間の伸長は相続人ごとにおこなう必要があります。
また、申し立てを行ったとしても、必ず延長してもらえるわけではありませんのでご注意ください。
通常、申し立てを行ってから、期間の伸長を認めるかどうかの決定まで1~2週間ほど要し、伸長できる期間は裁判官の判断により、1か月~3か月ぐらいになります。
遺言が公正証書以外の形式で残されていた場合、その遺言によって相続手続きを行うには、家庭裁判所に遺言を提出し、検認の手続きをしなければなりません。 検認とは、相続人に対して遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言の内容を明確にし、偽造・変造を防止するための手続きになります。この検認手続が終了すると、検認済み証明書を添付された遺言書が交付され、遺言によって手続きを行うことが可能になります。
検認の申立は遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。また、申立の際には、申立書以外に、遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本、相続人全員の戸籍謄本等が必要になります。
遺言によって遺言を執行する人が指定されていないとき又は遺言執行者がなくなったときは,家庭裁判所は,申立てにより,遺言執行者を選任することができます。(遺言執行者とは,遺言の内容を実現する者のことです。) 遺言執行者には、未成年者や破産者を除いて誰でもなることができます。
また、相続人の一人が遺言執行者になると、他の相続人から相続財産を独り占めにしているなどのあらぬ疑いをかけられることもあるため、無用なトラブルを生まないためにも、遺言執行者には利害関係人である親族を選任するよりは、弁護士や司法書士などの専門家や様々な相続手続きに精通した人を選任するほうが良いでしょう。
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所にとりなしてもらうこともできます。これを遺産分割調停と言います。 調停手続を利用する場合,まず申立書を書き、被相続人の戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本及び住民票、遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し又は残高証明書、有価証券写し等)などとともに管轄の家庭裁判所(管轄がどこかは裁判所のホームページで確認できます)に提出します。
調停手続では,当事者双方から事情を聴いたり,必要に応じて資料等を提出してもらったり,遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで,各当事者がそれぞれどのような分割方法を希望しているか意向を聴取し,解決案を提示したり,解決のために必要な助言をし,合意を目指し話合いが進められます。 なお,話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始され,裁判官が,遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して,審判をすることになります。