これだけは守ってほしい、遺産分割協議の作法
遺産分割協議、もめるのはこんな時
相続の最大の山場であり、もっとも争いとなる可能性が高いのが、遺産をどう分けるかの話し合い、すなわち遺産分割協議の場だ。
遺言書があり、その内容に不服が無ければ話は早い。その指示に従って財産を分け、子の認知や遺産分割の延長などの諸手続を進めればよいからだ。
だが、現実にはそう簡単に事は運ばない。そもそも遺言書が無い場合もままあるうえ、仮に残っていたとしても不備があったり、内容に遺族が異を唱えるなどして話がこじれてしまうのだ。
特に、相続税を納めるとか、税額控除の特例を申請すると言った手続きを行わない家庭が厄介だ。
通常、相続税を納めるのは相続開始(被相続人の死亡)から10カ月以内と決まっており、この期限内に遺産分割協議に結論を出さなくてはいけない。
また、相続税を軽減させる数々の特例を税務署に申し出るにしても、やはり10カ月以内に手続きを済ませる必要がある。
けれども、いずれにも当てはまらない場合、遺産をいつまでに分けるかの期限は事実上存在せず、延々と話し合いを続けることが可能となる。
限られた財産をめぐって血を分けた親子きょうだいで争い、対立や反目を深めるという泥沼を避けるにはどうすればよいのか。
もちろん、遺産の額や相続人の状況は家庭によって異なるため、一概にこうすれば間違いないというアドバイスをすることはできない。それでも、以下に掲げる三つのルールだけは相続人全員に最低限守ってほしい。
そうすれば、もめる状況は激減することだろう。
ルール1.法定相続分にこだわりすぎない
法定相続分とは民法で決められた、各法定相続人が受け取ることのできる財産額の目安。
たとえば、夫の財産を配偶者と子二人が受け継ぐ場合、前者は総額の半分を、後者は一人当たり四分の一ずつ受け取ることができる。
ただ、これはあくまで目安であって、相続人の同意が得られるか、遺言書に別の分け方が記載されているなどすれば、法定相続分を無視してそちらを優先させることができる。
それでも、実際の相続の場では子の分け方にこだわる人がいて、協議が難航することがある。
特に難しいのが不動産を分けるときで、上の家族構成でいえば、「母者は4,000万円相当の持ち家を相続した。ならば我ら兄弟には2,000万円分ずつ渡すのが道理ではないか」などと主張し、頑として譲らない人がいる。
だが、財産が他に潤沢にあるというならまだしもまとまった額の遺産は不動産のみというケースも少なくない中、こうした意見を通そうとするのはいささか無理がある。
強引に我を張るよりは、金銭以外の形で分割の不平等を補うなどして、ある程度妥協するのがたがいにとってメリットがあるのではないか。
ルール2.プラス・マイナスに関わらず、主張・申告すべきことがある時はあらかじめ自分から申し立てておく
前回は、遺産分割でもめないためのアドヴァイスとして法定相続分にこだわりすぎないことを挙げたが、これに関連してお勧めしたいのがこのルールだ。
特に親から開業資金を受けていたり、持参金を貰うなどして多額の資金援助を受けていた場合(特別受益という)や介護などをしていて親に対する貢献が大きかった場合(寄与分)などは法定相続分通りに分割されるとは限らない。
トラブルが頻発するのは、本人や他の遺族が、後からこうした特殊ケースを主張してくる時だ。
「お兄さんは財産の四分の一を受け取りたいと言っているけれど、大学卒業後に事業を立ち上げるとき、親父から2,000万円貰ったそうじゃないか。その分は少なく取るのが筋ではないか」
「みんなは財産を公平に、同額で分けるべきだというけれど、私がお父さんを介護してきたことは認めてほしいわ。 私の努力を斟酌して、取り分を調整することこそフェアな分け方なのではないかしら」等々。
こうなると、せっかく話し合いがまとまってきていたとしても再びこじれ、平行線をたどってしまう。
後から色々と新たな問題が噴出して議論が無限ループしては、結論が出ようはずもない。 こうした事態を避けるためにも、遺産分割に関して申し出るべきことがある時はあらかじめ他の相続人に伝えておき、それを考慮した上で話し合いに入ってはいかがだろうか。
3.遺産相続の参加者を決めておく
協議において主役となるのは法定相続人だが、直接遺産を受け取ることのできない人間が割って入り、もめることがある。 特に多いのが、相続人の配偶者が口をはさむケースだ。
たとえば、きょうだいで親の財産を相続する場合、彼らが存命であれば配偶者に法定相続分はない。 そのはずなのだが、この原則は認知されていないか、少なくとも守られていないことはよくある。
事実、次男の嫁が「財産は兄弟で均分しよう」と言うと、長男の嫁が「長男が多くもらうのは当然。せめて実家は譲ってもらわないと」などと応酬し、嫁同士の熾烈なバトルの幕開きとなることは、これまでに幾度となく繰り返されてきた。
だが、本来遺産分割に参加する資格があるのはあくまで当事者、つまり遺産を受け取ることのできる人間だけであり、その意味ではたとえ子の配偶者であっても部外者のはずだ。
いたずらに彼(女)らに協議への参加を許し、遺族間の争いを招くのは賢明とは言えない。
その意見を反映させるのはともかく、実際の話し合いに関わるのは相続人のみに限った方が手続はスムーズに進行するだろう。
参考資料:長谷川裕雅『モメない相続』朝日新書、2012年。
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