相続手続相続財産遺言書

アパートのオーナーさん必見!収入を確保しつつ後継者を教育する方法

アパート経営を手掛けるある初老の男性の悩みに耳を傾けてみよう。

「私もそろそろ引退を考える年になった。親から引き継いだ土地を利用して建てたアパートは実入りもいいし、是非息子に継がせたい。

だが、一つ問題がある。これまで事業展開に手いっぱいで、息子に経営のなんたるかを教えてやれなかったことだ。

今のうちから彼を管理人にしてOJTでビシバシしごいてやりたいが、管理権を譲ってしまうと所有権まで移ってしまうから、アパートの賃料収入が息子のものになってしまう。

そうなると、自分の生活が危うい(あの親知らずが、賃料収入で面倒を見てくれることなど期待する方がばかげている)。

かといって、アシスタントとして雇っていては、私に万が一のことがあったときに不安だ。というのも、認知症などになってしまうと自分では財産を処分できなくなってしまうし、所有権が自分にある以上、他人が手を出すこともできない。

どうすれば、賃料収入はわがものとしつつ子供に経営を任せる(つまり、所有権を移す)にはどうしたらよいのだろうか。」

 

こんな悩みを解決してくれるのが、民事委託という仕組みだ。

「信託」というと信託銀行のように、金融業が絡んでくるのでは、と身構えることのなきよう。

これは所有権をもつ人間(委託者)が財産管理・処分権を他人(受託者)に任せ、受託者の仕事から得られた利益は委託者が貰うという契約を当事者間で結ぶことだ。

今回の例でいうと、オーナーは委託者となり息子が受託者となればよい。こうすれば、父親はアパートの所有権と賃料収入を自分の者としながら経営そのものは息子に任せることができるので、後継者教育ができるのだ。

 

これを読まれた方は、「業務委託とどう違うのだろう」と首をかしげたかもしれない。

両者は受託者の裁量が異なる。業務委託ならあくまで任務を代行するだけで、委託者の財産を処分(アパートの売却など)する権限は与えられていない。

だが、民事委託なら処分権も与えておけば、たとえば委託人が認知症になるなどして意思決定が困難になったとしても、受託者が代わりに処理することができる。

そのため、民事委託はいざとい言う時の安全ルートを確保しつつ事業承継を行うのに適した方法と言える。

 

また、遺言書と違って生前から財産譲渡のための手続を勧めることができるため、事業継承が望ましい形で行われているか委託者自身が確かめられるうえ、成年後見人制度とは異なり財産の保全だけでなく売却も行いやすい強みがある(成年後見人制度とは、判断能力が著しく低下した本人に代わり、家庭裁判所に認められた後見人が法的行為を行うこと。一般に本人の財産保全が後見人の仕事であるため、財産の売却などは認められないことも少なくない)。

 

最後に、民事委託に係る手続について。

民事委託には、受託人の業務執行が適切になされているかの監督を行う人物が必要であり、これは司法書士が引き受けるのが一般的だ。そのため、民事委託に当たっては、それを専門とする司法書士に費用を含めて相談されることを勧める。

【タグ】,,,