相続でもめたくない人のために
連絡がつかない相手との均衡はかなり大変だが、遺産分割協議は相続人全員の参加が前提のため、無視することはできない。
相続人が生きていることは確かだが、連絡がとれず住所も不確かな場合は、まずはその人の住所を特定する必要がある。
戸籍を追っていくと行方不明者の現在の本籍地がわかる。
その本籍地の市町村で発行している戸籍の附票という書類で、現住所を確認することができる。
現住所が特定できたら手紙を書いたり、電話番号を調べたり、直接住所地を訪ねる等可能な限り連絡を取り、遺産分割の交渉を進める。
もし、その住所地に相続人が居住していない場合は、「不在者の財産管理人の選任」を家庭裁判所に申し立て、遺産分割協議を行うこともできる。
ただし、不在者の財産管理人の権限はあくまで保存や管理なので遺産分割協議を行うには、家庭裁判所の許可が必要であり決して容易ではない。
また、相続人が生きているかどうかもわからない場合は、家庭裁判所に失踪宣告を申し立て、行方不明者を行方不明になった時から7年後に亡くなったものとみなしてもらうことができる(普通失踪)。
この場合、行方不明者に子供がいれば子供が相続人となり、遺産分割協議に参加しなければ遺産を分割できない(代襲相続)。
では逆に、ある相続人と連絡はとれるのだが、家庭の事情などでその人にどうしても相続させたくない場合はどうするか。
これには、相続廃除の手続を踏む必要がある。
被相続人自身か、遺言書に遺言執行者として指定された人物が家庭裁判所に申し立て、相手の相続権一切を失わせるのだ。
当然、相続廃除にはそうするだけの理由が無くてはならず、具体的には
・生前、被相続人に対して度々暴力をふるっていた
・被相続人の言うことを聞かずに非行を繰り返した
・被相続人の身の回りの世話などを一切行なわず、都合のよい時しか訪問しなかった
場合などに認められた判例がある。
但し、相続廃除には それなりの理由だけなく、被相続人が行動を起こすことも必要なことに注意しよう。
特に生前この手続を行っていなかった場合、遺言書の存在は必須だ。
遺言書というと遺産分割の方法だけが記載されているような印象があるかもしれないが、相続人を指定するにも絶大な効力を発揮する。
故人の遺志どおりに相続を済ませるには、そのアクションは欠かせないのだ。
信託銀行が取り扱っている遺言信託の利用者が増えているが、果たして現代にマッチしたサービスなのだろうかと疑問を持つ。
遺言信託は、主に遺言書の作成アドヴァイスならびに保管・執行を請け負う契約と、契約者(遺言者)が死亡した後も引き続き遺言執行者として遺言内容の実現をはかる、いわゆる遺言執行者付き契約の二種類がある。
メリットとしては、弁護士とは異なり、信託会社という組織に依頼するため、遺言書の管理や執行が数十年先になっても比較的安心(依頼した弁護士が途中で亡くなるという心配がない)であることや、不動産の活用方法や資産運用をはじめ税金対策等、全体的に相談を受けられる点である。
しかし、遺言信託には基本手数料のほか、相続が開始されるまで毎年発生する遺言書保管料や遺言執行報酬など費用がかかり、その金額は決して安くはない。
利用者は、不動産や動産等の財産が一億円を超えるような資産家に多いのが現状である。また、支店数も限られており、気軽に利用できない。
つまり、大多数の人にとって遺言信託は身近な相続の方法とは言えない。
そこで、相続時のトラブルを防止するために自分で遺言書を作成することをオススメする。民法で定めている遺言では「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の二つが一般的である。自筆証書遺言書は費用がかからないが、自分で作成するため、形式の不備や内容が不明確になりがちで後日トラブルになりやすい。
そんな相続時のトラブルを避けるためには、公正証書遺言の作成が良い。
費用はかかるが、遺言信託に比べれば格安だし、公証人が作成するため形式の不備により無効になる恐れがない。
遺言書原本は、公証役場に保管されるため、偽造、変造、紛失の心配もない。
公証役場は全国に300カ所あり、自宅などに公証人が出張することも可能なので、病床の方も遺言をすることができる。
公正証書遺言は裁判所の判決と同様法的に強制力がある。
きちんとした形で遺言を残しておくことで、残された家族が「争族」にならないように、準備を怠らないことが大切である。