相続手続相続財産

決定版!すぐわかる、被相続人の財産

相続で難しいのは、どこにどれだけの財産があるか、つまり相続財産の価額と種類を見極めることだ。
目先のお金ばかりに囚われていると、つい「父親の財産は預金と不動産がある。そういえば、退職してからは大きな買い物をしなかったみたいだから、退職金もたんまり抱え込んでいたかもしれない。そういえば、株もやっていたっけ」などと、色々な種類の財産を思いつくがままに挙げ、その価値を当て推量するままに時を過ごしてしまう。
だが、忘れてはならないのは、遺産を相続するのは往々にして自分だけではないということと、相続人の間で故人の財産を分け合うには、財産の内容を正確に把握していなくてはならないということだ。
実際、相続財産の性格はさまざまであり、分けやすい財産(現金、預貯金など)とそうでない財産(不動産など)があるほか、同じ財産でも多額の控除を受けられる(つまり、相続税を払わなくて済む可能性が高くなる)分け方とそうでない分け方がある。
「自分は配偶者だからたくさんもらえるだろうし、そもそもうちは円満家庭だからもめることもない」と、喜色満面で拱手傍観していては遺産分割の話し合いは小田原評定となってしまい、結論が出るはずもない。
相続するとなったら外野から適当に口出ししていればよいという態度は捨て、プレーヤーのひとりとして、財産の種類と額を割り出し、それをどう分けるかについて他の相続人の意見も踏まえつつ、全員一致で決めなくてはならない。
一部の相続人や専門家に任せきりにしていては、泣きを見るのは本人である。
さて、相続の際の心構えを述べたところで、では具体的にどう動けばよいのか。
まずは故人の財産を手早く把握する方法を挙げ、次いでその遺産を分けるうえで、なるべく避けた方がよい方法をいくつか紹介しよう。
ここで「こうして分けるとよい」という形式のアドヴァイスをあえて採らないのは、遺産分割の方法は一つではなく、各家庭の実情に即してみないと適切な助言をするのは難しいと思われるためだ。
そこで、これはやってはならないという「べからず集」を示しておくため、他山の石としてほしい。
故人が事業などを経営していた場合は自社株が有力な財産の一つとなり、事業承継、つまり誰が後を継ぐのか、あるいは継がずに事業を打ち切るかという問題も絡むと話は複雑になる。
だが、そうでないご家庭の場合、主な財産としては
故人が持っていたお金(現金・預貯金・債券・有価証券など)
死亡と同時に入るお金(姓名保険金・死亡退職金・遺族年金など)
その他、換金できるもの(フリーパス・有料会員権など)
不動産
に大別できるだろう。

故人の財産のうち、現金や貴重品などはどうすればわかるか。
まず、現金が故人の手元にあれば話は早いのだが、手持ちのお金をすべて身の回りにしまっておくとは考え難い。大半は金融機関に預けてあると思ってよいだろう。
そうすると、預貯金を調査する必要が出てくる。
故人が取引していた金融機関に問い合わせ、残高証明書を発行してもらおう。
死亡者の預貯金は、不正な引き出しや入金を防ぐためにロックされてしまうためそのお金をすぐに引き出して分けることはできないが※、遺産総額を掴むためにも残高は重要な情報である。残高照会には
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
相続人全員の戸籍謄本
相続人全員の印鑑証明書
被相続人の預金通帳、キャッシュカード
などが要る。
もし故人がどの金融機関と取引があったのか分からないというときは、クレジットカードの利用明細や請求書に注意しよう。
そこに、引き落とし口座の手掛かりが記載されていることが多い。
ただ、昨今では携帯電話やパソコン上にこうした書類が送られてくることもあるため、故人のデバイスはすぐに処分せず手元に置いておきたい。
また、貴重品や高額な株などは貸金庫に預けてあるというご家庭も多いが、貸金庫もやはりロックされてしまう。
貸金庫は中だけ覗かせてもらうことはできないため凍結解除の必要が出てくるが、そのためには
貸金庫名義書き換え依頼書(銀行に備え付け)
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
相続人全員の戸籍謄本
相続人全員の印鑑証明書
被相続人の預金通帳、キャッシュカード
といった書類は最低限必要だ(その他の書類を求めてくる金融機関もあるので、個別に確認されたい)。
なお、家族の戸籍謄本は故人の本籍地を管轄する役所で「相続手続きで使うので、被相続人についてのさかのぼった戸籍を出して下さい」と言えば、必要な戸籍をすべて取り寄せてくれる。ぜひ覚えておこう。
※預貯金のロックを解除するには、遺産の分け方を相続人全員で決め、それぞれの署名・押印を集めて金融機関に提出する必要がある。

現金の財産を掴んでおくには、いくつかの方法があることがわかった。
一方、株式や債券などの有価証券を所有していたらどうするか。
売却するにせよ遺族で分けるにせよ、その価値を知っておく必要はあるのだが、株式、特に非上場会社のそれは計算が複雑を極め、初心者には手に負えないことも少なくない。
そこで、取引先の金融機関や証券会社などに「評価証明書」の発行を依頼しよう。
それを見れば、株の価値はわかるし、思わぬ保有株の存在が判明したりとメリットが色々とあるためだ。

次に、生命保険金などは、故人が加入していたことを知らなかったりして請求し忘れることも少なくない。
だが、保険金や遺族年金など、もらえるお金は自分から申請しなくては手に入ることはまずない。
故人が保険会社の資料を保管していたり、国民年金、厚生年金などいくつかの年金に加入していたりした場合などは特に注意し、保険金なら契約会社、国民年金なら市区町村役場といったように、各窓口に問い合わせよう。

さらに忘れがちなのは、定期券やゴルフ会員権といった、換金できる財産だ。これらは一般に少額ではあるが、ものによっては万単位の価額が付くこともある。
基本的に期限が失効すると価値を失ってしまうので、故人の定期券やスポーツクラブの会員権などは早めに各団体に問い合わせ、返却しておきたい。

最後に、不動産はどう評価するか。
一番容易な仕方は権利書や登記識別情報と書かれた書類を参照することだ。
それらには不動産の所有者や大きさなど不動産の詳細情報が記されており、これがあれば故人の持っていた不動産の中身がわかる。
とはいえ、こうした書類が見当たらなくても心配はいらない。
故人が不動産を持っていた場合、毎年五月に「固定資産税通知書」という通知が役所から送られてくる。そこに土地や建物の価額が記されているため、財産額はすぐに知ることができる。
こうして代表的な財産を調査する方法を紹介したが、そのためには次の二つが必要なことがわかるだろう。
・故人宛ての通知や、携帯電話・パソコンなどは財産に関する情報の宝庫であるためすぐに処分してはならない。
・入ってくるお金は自分から申し出るか手続しないともらえない。取りはぐれを防ぐためにも早めに調べておくこと。
以上、相続財産調査の鉄則として念頭に置いてほしい。

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