都内に一軒家をお持ちの方へ――相続税、心配していませんか?
このたびの税制改正に伴い、相続税の仕組みが大きく変わった。
これまでは5,000万円に(法定相続人の数)×1,000万円を足した額が相続財産から控除されていたのが、今年一月からは3,000万円に(法定相続人の数)×600万円を足した金額しか控除されなくなる。
そこで、「もしかしたら自分も税金を払うことに……」と不安になったり、その不安をあおったりする動きが出てきている。
実際、相続専門の税理士法人レガシィが今年一月から受けた相談件数は、例年の1.5倍にもなるという。
もちろんこの数字だけで相続税についての関心が全国的に高まっているとは言えないし、たとえそうだとしても基礎控除額の引き下げに伴って一般の関心が強くなったと即断することはできないが、少なくとも一部の方は相続税を心配しているとは言える。
また、基礎控除額が減るということはより少ない額の財産も課税の対象となるということだ。
そのため、これまでの制度下では対象外だったご家庭の内からも税務署の標的となるところが新たに出てくるのは確かだろう。
しかし、税務署に勤める方でもない限り、何軒のお宅に相続税がかかるとか、徴収される相続税は総計いくらになるかといったマクロなデータは大きな意味を持たない。
むしろこの記事を読まれているあなたにとっての最大の関心事は、
―自分は相続税を払わなくてはならないのか―
この一事に尽きるのではないか。
そこで、今回はまず相続税がかかるかどうかを調べる簡単な方法を紹介したのち、上の心配がいかに杞憂であるかを述べる。
まず、税金のことは税理士に聞かないとわからないとか、相続税はいろいろ計算が複雑なので自分の手には負えないだろう、といった思い込みは捨てよう。
たしかに財産額の評価や相続税の計算には複雑なプロセスを伴うことがあるが、おおざっぱな予測を立てることは、一般の方でも容易にできる。
はじめに知っておくべきは被相続人、つまり故人、あるいは近く亡くなる可能性の高い人物がどれだけの財産を、どういう形で持っていて、それを何人の相続人で分けるのか、ということだ。
これを把握する方法は他の記事で詳しく説明してあるが、おもな財産額を調べる方法は次の通り。
・現金・預貯金…現金は個人の金庫や貴重品入れを見、預貯金は取引のあった金融機関から残高照会を発行してもらって調べよう。もし故人がどの金融機関と取引があったのか分からないというときは、クレジットカードの利用明細や請求書に注意するか、故人の携帯電話やパソコンにこれらの情報が送られてきていないかを見る。
・株式・有価証券…取引先の証券会社に「評価証明」を発行してもらう。
・不動産…持ち家などの宅地であれば、毎年五月に役所から送られてくる「固定資産税通知書」にその不動産の評価額が書いてある。
故人の住んでいた家が個人の所有なのか借家なのか不明なときは、法務局で、その住所を伝えたうえで「登記事項証明書を見せてください」と頼めば、その証明書に所有者がだれかが書いてある。
・生命保険金…現金・預貯金と同じようにして取引先を調べ、故人が亡くなったことを伝える。
・負債…個人間でのお金のやり取りに関しては、故人が証書などを保管していないか調べるか、債権者から連絡があるのを待つしかない。
ただ、クレジットカードの借金などの情報は個人情報信用機関(JICCやCIC等)が収集しており、そちらに情報開示を請求することもできる(請求者本人の身分証明書や戸籍、故人の戸籍※が必要)。
※家族の戸籍謄本は故人の本籍地を管轄する役所で「相続手続きで使うので、被相続人についてのさかのぼった戸籍を出して下さい」と言えば、必要な戸籍をすべて取り寄せてくれる。
さて、財産額をおおよそ把握したとして、次に調べるべきはその財産が、相続税の対象となるかどうかということだ。
これは当サイトで簡単に調べることができる。
相続シミュレーションに判明した財産額を打ち込めば相続税がかかるかどうかは瞬時に分かる。
もし「課税ありの可能性が高い」との診断結果が出れば、専門家相談にその旨を伝えれば、節税のためのアドヴァイスなどが得られるだろう。
だが、あなたの相続財産に相続税がかかる可能性は低い。国税庁によると、2013年に全国で亡くなった127万人のうち、課税対象となったのは約54,000人で、全体の4.3%に過ぎない。
税制改正によってこの数字が上がるとはいえ、対象となるのはせいぜい6%程度といわれる。また、地価が高い東京では持ち家の評価額が高いため、課税対象は他の都道府県よりも多いといわれるが、それさえも多くのご家庭にとっては無用な心配となりそうだ。
というのも、相続税の計算は単に財産から基礎控除額を引いて零を超えたら一定の税率をかける、といった仕方でなされるのではなく、相続人の状況によって、数々の例外(特権など)が認められる。
具体的に、どのような特例があるのか。
特例①小規模宅地等の評価…生前から土地を住居や事業所として使っていて、しかも家族(配偶者または被相続人の生前同居していた子など)がその住居や事業所を使用し続ける場合に限って使える特例。
相続する土地が被相続人の住居であった場合、そこは特定居住用宅地とされ、330㎡すなわち100坪までは税額が80%少なくなる。
また、同じ土地を被相続人の事業所として使っていた場合、特定事業用宅地とみなされ、400平方メートルまでは税額がやはり80%減となる。
たとえば、面積が400㎡で、評価額8,000万円の住居があったとする。この時1平方メートルあたりの価値は20万円であるが、課税の際は330㎡までは80%減の値段(4万円/㎡)で評価されるため、実質的な課税額は、次のように計算する。
4×330+(400-330)×20=2,720万円
つまり、法定相続人がいれば、他に2,000万円財産があっても課税対象とはならないのだ。
②生命保険・死亡退職金の控除…(受け取る法定相続人の数)×500万円は非課税。
控除の対象となるのはあくまで「法定」相続人であって、たとえば受取人が先妻の子で、配偶者とその子が存命である場合、法定相続人は後者二人であるため控除の対象外となる(とはいえ、多くのご家庭では生命保険金等は家族が受取人となっていると思うので、あまり気に病む必要はない)。
③配偶者の税額控除…配偶者が相続する場合、1億6千万円または法定相続分は非課税。
つまり、法定相続分の範囲であれば、どんなに多く受け取っても配偶者は税金を払う必要はない。
④未成年者・障害者の税額控除
法定相続人が未成年の場合…(20-相続開始時の年齢)×6万円は非課税。
そのため、7歳5カ月(≒8歳)の子供が相続するなら、(20-12)×6=48万円は非課税
法定相続人が障害者の場合…(70-相続開始時の年齢)×6万円(特別障害者は12万円)が非課税。
⑤葬式費用の控除…葬儀料・戒名料・お布施代・火葬(埋葬)料・通夜代などは税金がかからない(ただし、墓地の購入費や香典返しの費用は控除が認められない)。
この他にも、相次相続の控除(10年以内に続けて相続する際の控除)、海外の財産を相続したときの外国税額の控除など、利用頻度は少ないながら控除の特例はいくつもある。
もちろん、被相続人の負債が非課税なのは、ご承知の通りだ。
こうした特例を用いれば、たとえシミュレーションで「課税あり」と診断された方でも結果的に相続税はまぬかれることが多い。
特に、不動産は額が大きいため、小規模宅地等の評価特例は強力な味方だろう。
なお、ここにあげた特例を使うには、いずれも税務署で申請する必要がある。そのため、特例なしでは課税ありと診断された方はひとまず税務署へ出向き、特例を使いたい旨を申し出れば認めてもらえるだろう。
こうして、あなたは相続税をびた一文払う必要はなくなるのだ。
参考記事:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11669980.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11669980