遺言書相続手続相続財産

合法的に借金を踏み倒す方法

相続放棄すべきはこんな時

「借金を相続しない方法」でも述べたように、相続できる財産は決してプラスの財産だけでなく、負債も含まれる。
そしてプラスの財産だけを貰って借金は放棄するということが許されない以上、自分は借金を含めて故人の財産を受け継ぐのか、それとも自らの権利を放棄するのか、出処進退を明らかにしなくてはならない。
そしてそのためには、故人の財産額を把握し、プラス・マイナスどちらに傾くのかを評価しておく必要がある。
今回はまずこの方法を復習し、実際に借金が膨大だったとして、さて相続放棄をするとなったときどうすればよいかを実例とともに示そう。

財産額を把握しよう

N氏は川崎で看護系の人材紹介業を営んでいたが、ある日生活習慣病で急逝した。配偶者は既に世を去っており、血縁者は埼玉でIT企業に勤める一人息子のみ。
当然彼は唯一の法定相続人となるのだが、問題が一つあった。
N氏の生前、二人は家庭内のトラブルから仲たがいをしてしまい、以来音信不通だったのだ。
そのため、息子は父親の事業の塩梅など知る由もない。
だが、不況のあおりを受けてN氏の事業は経営難に陥っており、資金の借り入れや法人税・住民税等の支払いも滞っていた。
いわば、首が回らない状態だったのである。

長男はこの事情はまったく知らないが、「もしかしたら……」という不安があり、父の負債額を調べることにした。
彼は何をすればよいだろうか。

まず遺品の整理をし、不動産の権利書や、通帳、印鑑、保険証書、各種の契約書などを調べることだ。
特に、郵便物には注意を払いたい。
亡くなる前後に送られてくる銀行、証券会社、保険会社などからの書類によって財産の有無が明らかになるとか、債権者から請求書が送付されてくることはままある。
また、不動産については毎年五月に役所から送られてくる固定資産税通知書に持ち家の評価額等が書いてあり、土地の価額は登記済証、登記識別情報などや市町村役場の名寄せ帳で確認できる。

また、今回のケースでは困難だが、できれば被相続人か、彼(女)の身近な人に財産の状況を聞きこみしておきたい。正確な額はともかく、借金の有無や資産の状況を手早く知るにはこれに尽きる。

すぐにできる相続放棄

さて、財産額を知り、負債が山積していることが発覚したため息子は相続放棄を決意した。
こうすれば、N氏の借金の返済義務は一切なくなるからだ。
これには、相続開始の事実を知ってから3カ月以内(一般に、被相続人の死亡から3カ月以内)に家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する必要がある。その際必要なのは被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本、被相続人の死亡の記載のある除籍謄本などだ。
提出する人間と故人の関係によって必要書類は異なるので、詳しくは裁判所の情報を確認されたい。
なお、限定承認の場合は相続人全員の同意と署名・捺印が必要だが、相続放棄の場合は本人の署名・捺印のみで十分だ。
最後に、よくある誤解を一つ。
たしかに相続放棄すると相続にかかる一切の権利を失うが、遺贈(遺言書によって、特定の人物に財産を譲ること)は受け取ることができる。
そのため、「遺言どおりに故人の財産を一部受け取ったのだから、いまさら相続放棄は認められない」という主張は成り立たない。

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