放っておくと後が怖い、相続登記
被相続人が亡くなると、その財産は基本的に遺族が分け合うことになるが、その中で処分に困るのが不動産だ。
現金のようにきっちり均等に分けることは難しく、かといって換金してしまえば遺族の住む家が亡くなる。
また、たとえ売ることに決まったとしても、買い手がつかないこともありうるし……と、悩みの種は尽きない。
だが、ここで見落とされているのは、相続登記にかかわる問題だ。
相続登記とは、不動産の名義人が亡くなった場合に、相続人に名義を変更する登記のことをいい、大切な手続きではあるのだが、いつまでに行うべきという期限は定めておらず、行わなくてもペナルティは特にない。
そこで、特に専門家の力を借りずにご自分で相続を行う方などには忘れられがちなのだが、この手続きないがしろにすると、後で手痛いしっぺ返しを食らうことになる。
次の事例を見てほしい。
父親が亡くなり、遺産相続をすることになった保険会社のK氏は、故人の財産を調べる中で、はたと行き詰まってしまった。
それは、父親が住んでいた家の権利者を調べようと登記事項証明書(ある土地の正確な所在や地積、所有者について書かれた記録。法務局で発行してもらうことができる)をめくっていた時のことである。
父の生前、彼のほかに権利を主張する人はいなかったので、てっきり所有者は一人だけだと思っていた。
しかし、登記事項証明書のどこを探しても父の名前は見当たらず、あるのは何十年も前に、K氏の祖父(既に他界)が、とある農家から現在K氏の実家となっている場所の土地を買い取り、そこに宅地を立てたという記録のみ。
そしてそこには共有名義として、祖父のほかにK氏が聞いたこともない男(M氏とする)の名が記されていた。
つまり、K氏の父親は、自分の親から土地を受け継ぐとき相続登記を怠ってしまい、自宅となっている土地の権利関係を手つかずの状態にとどめてしまったのだ。
そこで、土地は連絡先も何もわからない人物とK氏の祖父の共有名義のまま放置されてしまっていた。
最初、K氏は当惑したものの、特に問題があるようには思わなかった。
たしかに実家の持ち主が自分の家の人間だけでないのには驚いたが、M氏の家の連絡先はわからないばかりか(登記事項証明書に書かれている住所は、すでに人手に渡っていた)これまで何の連絡もない。きっとこの不動産のことなど忘れているのだろうし、それなら自分の家の所有物としてしまっても問題なかろう、そう考えたのだ。
だが、そこに落とし穴が潜んでいた。
母はすでになく、実家に住み続けたいという相続人もいなかったため、K氏は父の家を売ることにした。
しかし、不動産会社からストップがかかってしまったのだ。
いわく、「この土地はK氏の所有物でない以上、彼が勝手に処分することはできない。まさか天国にお伺いをたてるわけにもいかないからK氏の祖父に連絡を取れとまでは言わないものの、M氏の家に相続人がいないかの調査は必要となる。もし、M氏に子供がいるなどしたら土地の所有権はその人に移っているはずなので、処分に当たっては、その人の同意をとらなくてはならない」とのこと。
問題を放置しておいてもあとが面倒になるだけと判断したK氏は、探偵事務所の力も借りながら、なんとかM氏の息子の住所を突き止め、コンタクトをとることに成功した。
そこで土地の処分に関する交渉に入ろうとしたのだが、相手は全く乗り気でない。
それもそのはず、彼にとって不動産の話は全く寝耳に水であり、そもそも父親が土地を持っていたことなど、知りもしなかった。その土地をどうしようか、とこれまた初対面の人間に持ちかけられては、すぐに相談に応じろというのも無理な話だろう。
いったんは考えさせてほしい、とお引き取り願ったM氏だが、ふとあることに思い当たった。
不動産が実際自分の親の名義であるなら、その売却益は自分にも受け取る権利があるのではないか、と。
そこで話は売却するか否かという話から、分け前をどうするかという話へ発展し、さらに交渉が長引くことになった。
上記の事例を見ても分かるように、相続登記を放置すると、次のようなデメリットがある。第一に、相続人が故人になったり連絡先が変更されたりして、連絡が取りづらくなるため、その調査が大変になること。
とくに、相続人の戸籍を集める場合はその人の本籍地の役場へ赴かなくてはならない場合もあり、相続人が複数いる場合、その労力は多大なものとなる。
また、相続人といっても遺族だけとは限らず、今回のケースのように、互いに赤の他人ということも往々にしてある。
不動産の相続においてこの問題は頻発しており、相続人は、会ったこともない人と財産管理のことを話し合わなくてはならなくなる。
それでは、話がすんなりまとまることは期待できないだろう。
そこで、相続登記はなるべく早めに済ませるべきという発想が出てくる。現所有者が亡くなった直後ならその土地の本来の所有者が存命である可能性はより高く、そうした場合、話はいくらか早い(少なくとも、「自分がそんな土地を持っているなどという話は聞いたこともない」ということにはならないだろう)。
また、連絡先が変更される以前なら、登記事項証明書に書かれた所有者の住所を当たれば本人と連絡が取れるはずだ。
期限がない相続登記とはいえ、放っておいてよいというわけではない。後々のトラブルを避けるためにも、早めに手を打っておこう。
では、具体的にどのような手続きを踏めば、相続登記できるのか。
相続登記を行う場所は法務局だが、それぞれの局には管轄があり、管轄を間違えてしまうと手続きができないので注意しよう。
相続したい不動産が管轄なのはどの法務局なのかは、法務局のホームページで確認することができる。
まずは必要書類、その中でも基本となる、戸籍謄本と登記事項証明書を手に入れよう。
戸籍謄本は、相続する土地の地番・家屋番号を調べるうえで必須だ。
この情報は、固定資産税納税通知書(毎年五月ごろ役所から送られてくる)、不動産の権利証、登記識別情報通知書、登記事項証明書などに記載されている。
もしこれら書類がいずれも見当たらないときは、名寄帳(なよせちょう)を市区町村役場から取り寄せることでも地番や家屋番号はわかる。
名寄せ帳をもらうには、
故人の戸籍謄本
請求者と故人のつながりを示す戸籍謄本
請求者の身分証明書(運転免許証、パスポートなど)
が必要だ。
※戸籍謄本の入手法…年金や保険金請求で必要な戸籍は、被相続人が死亡したことが分かる最新の戸籍謄本のみ。
ただし、不動産や預貯金などの相続手続きでは被相続人の出生から死亡時までの連続したものが必要で、婚姻などで遺族が戸籍から外れたことを証明する除籍謄本等、その他の戸籍が求められる。
これら戸籍謄本は、故人の本籍地を管轄する役所で「相続手続きで使うので、被相続人についてのさかのぼった戸籍を出して下さい」と請求すればすべて取り寄せてもらえる。
2.登記事項証明書の取得…登記事項証明書には、その不動産の場所や面積、所有者など
が記されている。これは全国どこの法務局でも受け取ることができ、交付申請書を窓口で入手、提出しよう。
証明書を手に入れたら「「権利者その他の事項」を見て、所有者がたしかに故人かどうかを確認したい。
既に人手に渡っていた、ということもあるためだ。
手続きに必要なその他の書類の集め方に移ろう。
3.住民票の写し・印鑑証明書を取得…相続登記を申請するには、新しく所有者となる方の住民票と印鑑証明書が必要だ。
どちらも市区町村役場の窓口でその日に入手できる。
4.固定資産評価証明書の取得…登記申請の手数料は不動産の価額によって異なるため、その価値を証明する書類が必要だ。
これは不動産のある市区町村役場で取得でき、その際次の書類を求められる。
申請書(窓口でもらうか、役場のホームページからダウンロードする)
請求者と故人のつながりを示す戸籍謄本
請求者の身分証明書(運転免許証、パスポートなど)
1~4までが完了したら、次は作成が必要な書類に取り掛かる。
5.遺産分割協議書の作成
7.登記申請書の作成…A4用紙にワープロ書きするのが基本。
登記申請書の記入項目は次の通り。
①登記の目的…相続する不動産を故人が一人で所有していた場合は「所有権移転」、二人以上で共有していたら「○○(故人の名)持ち分全部移転」と記入。
②原因…「年月日(故人の命日)」を記入のうえ、「相続」と書く。
③相続人…故人の氏名をカッコでくくって「(故人の名)」というように書き、その下に所有権を相続する人の住所氏名を記載します。なお、住所は「1-2-3」などと省略せず、「一丁目2番3号」というように丁目は漢字、番地と号数は算用数字で記入しなくてはならない。
④住民票コード…住民票に記載されているコードを記入する。
⑤申請日と管轄
⑥課税価格…固定資産評価証明書の金額の、1,000円未満を切り捨てた金額を記入。
⑦登録免許税…課税価格×0.4(1,000円未満は切り捨て)を記入。
スムーズに進むと名義変更は1ヵ月ほどで済むが、取り寄せる情報が多くなればなるほど、当然期間を要する。手続き内容の量や慣れない作業のため、相続手続きのプロである司法書士に頼むのがよいだろう。
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