奥さん旦那はたくさんもらってしかるべき?
家庭によって家族仲の良しあしやコミュニケーションの密度などはもちろん異なるが、多くの場合、個人にとって最も身近な存在は、やはり配偶者だろう。
平成22年度の内閣府の統計にも表れているように、日本では「最も身近な存在は誰か」という質問に対し、六割以上の方が配偶者と答えており、日常生活、仕事両面で夫や妻の力となり、励ましてくれる最大の貢献者は配偶者だということをうかがわせる。
このように、物心両面から故人を支えてきたパートナーには、相続時にもより多くの財産が与えられてしかるべきではないか――そういった方針から、上川法相は今回の変更案を打ち出した。
具体的な変更案は、以下の通り。
第一に、夫婦が協力して作った財産については、法定相続分(民法で決められた、各相続人の取り分。)を越えて、配偶者の取り分を増やしてはどうかというもの。
これが適用されれば、相続財産は実質的な夫婦共有財産とそうでないものに分けられ、前者については配偶者により多くの取り分が確保される。
現行制度下ではこうした財産の種別はないが、そうすると婚姻期間の長短など家庭状況によって財産形成の貢献度にはばらつきがある以上、どの夫婦も一律同じ取り分としてはその偏差をくみ取れないのではないかという批判からこの提案がなされた。
今一つの大きな建議は居住権、つまり残された配偶者には自宅に住み続けられるという権利だ。
居住権を賃料としてお金に換算し、その分を預金など別の遺産から差し引いて他の相続人に配分すれば配偶者は移転しなくてよい、という考えである。
遺産分割によって持ち家を離れることになれば、特に高齢の配偶者にとっては次の居住先を探すのが困難になるのではないか、との配慮からこの提案はなされた。
その他、介護などの特別の貢献があった場合に相続分を増やすなどの案も俎上に載せられる予定だ。
上川陽子法相は先月24日、相続法制の見直しを法制審議会に諮問した。その内容は、配偶者の取り分を大きくしようというものであった。
故人と配偶者の生前の結びつきや協力を踏まえるなら、この提案には一理ある。
だが同時に、実現に当たってはいくつかの課題もある。
まず、夫婦共有財産に関してだが、どこまでを夫婦で築き上げたとみなすかの線引きが難しい。
たとえば、夫婦で店を経営しており共同責任者として采配をふるっていた、というならまだわかりやすい。
その財産は、ある程度数値化できるからだ。
けれども、「妻(夫)は専業主婦(夫)として長年自分を支え励ましてくれ、心の励みになってくれた。彼(女)に収入は無かったものの、仕事で一定の成功を収め、財をなしたのはよき伴侶のおかげだ」という場合、どう評価するのか。こちらは定量化は困難だが、かといって財産形成に一役買ったことを認めないわけにはいかないだろう。
また、同じ共有財産でも、配偶者以外の親族で築き上げたようなとき、たとえば親子で共同事業を営んでいた場合などは、「配偶者ではないから」と共有財産として認めないでよいものか、という点も検討しなくてはならない。
同時に、居住権についても議論の余地がある。
居住権に相当する賃料はいくらになるのかという計算が難しいだけでなく、持ち家以外に別段財産が無いようなご家庭では、家を売ってお金にでもしない限り配偶者以外の相続人にわたる財産が無いのではないか。
さらに、こうして配偶者を優遇しては他の相続人と不平等になるという懸念もある。
そっから、家を換価分割(財産を売ってお金に換え、分けること)して法定相続人に規定通り分けたり、不動産を分筆にしたりと土地の分け方にはいくつか方法があり、遺産分割の方法は各家庭に任せればよいのではないかという考えも出てくる。
故人の生前、貢献度の高かったであろう配偶者に焦点を当て、彼らを相続時に優遇しようという姿勢は評価さ得るべきだ。
だがこれはややもすれば不公平や、国家による家庭への過干渉を招きかねないとの批判も予想される。
つまり、不公平をなくすための変更がかえって不公平や,遺産分割協議時の争議を招くことになりかねない。
裁判所の統計にもあるように、遺産分割を原因とする調停(相続人の間でもめた時、家庭裁判所に間に入ってもらって解決を図ること)の件数は毎年一万件を超えており、遺産をめぐる骨肉の争いは後が絶えない。
今回の変更が実現した折に内輪もめがエスカレートし、「相続」が「争族」となることのないよう、制度見直しに際しては慎重かつ遺族の立場に立ったうえでの議論が望まれる。