今からできる、もめないための工夫
被相続人としては、自分が去った後に相続人がもめているという状況は想像したくないものだが、事情によってはやはりもめてしまうのが現実だ。どんなに家族関係が良好であっても、そして財産額がどんなに少なくてもお金が絡むと豹変してしまう人はやはりいて、自分が有利になるようにと画策する結果、他の相続人の待ったが入り、争いへと発展してしまうのだ。
こうした事態を避けるには、被相続人の努力が不可欠なのだが、では実際にどうすればよいのだろうか。まず肝心なのは、親族間の信頼関係を保持あるいは回復しておくこと。このうち厄介なのは、一度壊れた信頼関係を修復させることだろう。これが破壊された期間が短く、程度も軽いものというならそれほど困難を覚えることはないが、長期にわたって対立があったり、深刻な亀裂が生じてしまった場合などは容易ではない。場合によっては、信頼関係を回復させようと思ってした行為が、何か裏があるのではないかと疑われ、逆効果となってしまうことすらある。
このようなとき、ただ待って修復の機会をうかがうのも一つの手だが、時間的な制約があり、それがうるされないこともある。そうした中被相続人ができることは、やはり相続人に理解されることを願って、誠意ある行動をとり続けることで彼らの疑念や誤解を払しょくすることだ。自分勝手な言動を慎み、自分の考えを理解してもらえるよう、平等な説明を、みんなに対して分け隔てなく行うことだ。
また、紛争の原因を取り除くことも肝心となる。
被相続人が生前からできる相続対策としては、第一に、不動産など分けにくい財産を現金化しておくことがある。もっとも簡単なのは現金化することだが、愛着のある不動産や経営している会社の株式など、そうは問屋が卸さないような財産もある。これを一部の相続人にそのまま引き継がせたい場合は、引き継いだ相続人が他の相続人に対し、代償資金、つまり埋め合わせを払う可能性が高くなる。これについてはたとえば生命保険をかけておいて、受取人を該当する相続人としておくと、その人は代償資金を確保できることになるため助かるだろう。
一方、相続税対策としては、相続税評価額を減らしておくことが望ましい。具体的に、不動産と借入金を両建てにする、生前贈与を活用するなどして、できるだけ相続税のかかる対象の価値を減らしておくことだ。ただ、ものによっては慎重な対策が必要なこともある。最たるものは更地であり、これをアパートにして経営すれば評価額は減るうえに、賃貸料も入ってくるため一石二鳥という話を持ちかけてくる不動産業者がいる。もちろんこの考えにも一理あり、成功している経営者も中にはいるのだが、それはあくまで十分な対策をし、利益を得られるだけの条件で賃貸できた時の話。たとえば、交通の不便な土地にアパートを建てたところで、よほど家賃などの条件がよくない限り十分な間借り人を確保することは難しい。「有効な相続税対策」「簡単に大家さんになれる」といったセールストークに乗せられることなく、現状を把握したうえで対策することが求められる。
専門家と上手に付き合うことも相続対策の上では非常に重要だ。「弁護士など士業の先生に相談すると、多額の費用が掛かるのでは
「どうも、専門家となると敷居が高くて……」と、躊躇される方もおり、たしかに専門家に相談すれば、結果として費用はかかる(中には無料相談を実施している専門家もいるが、それは多くの場合初回のみ。それ以降は一回5,000円など、安くはない相談料がかかるのが普通だ)。ただ、相続後にもめると結局依頼せざるを得なくなるし、なまじ事態がこじれてから相談するとなると、対応が複雑になり、余計に費用がかかるリスクもある。「自分の家は絶対にもめないし、手続きに関しても知識と経験があるから問題ない」という確固たる自信があるなら話は別だが、そうでない限りはやはり専門家の門戸をたたくことをお勧めする。
では、どの専門家に何を相談すればよいのか。よくある誤解は、それぞれの専門家には得意不得意があり、一つの案件を処理してもらうにも、複数の先生に依頼しなくてはならず、手間がかかるというもの。だが実際には、各専門家は自分にできない分野については他の専門家を紹介するといったネットワークを持っていることが多い。そこで、新たな問題が生じても最初に頼んだ専門家に問い合わせれば事足りることが多い。最初に頼むとよい専門家は、次の通り。
・もうすでにもめている→弁護士
・もめているが、争っている金額が100万円程度と比較的少額→弁護士又は司法書士
・相続税がかかるか心配→税理士または公認会計士
・登記が必要→司法書士
・相続関係巣の作成など、紛争や税務以外での作業を頼みたい→行政書士又は司法書士