相続手続相続税

相続のとき税理士は何をしてくれるのか?

中小企業のオーナーの方には顧問の税理士がいることも多く、税務に関する相談などを引き受けてもらうことは日常茶飯事だろう。しかし、層でもなければ日常的に税理士と関わりのある方は少なく、いざ相続となったとき、何をしてくれるのか、あるいは何をしてもらえるのか、不明点が多いと言う人も中にはあるだろう。ここでは、税理士は相続の際どのように活躍してくれるのかを紹介した後、では実際に彼らに業務を依頼するにはどうしたらよいかを考えてみたい。

税理士は税金の専門家であり、個人、法人問わず納税者から依頼を受け、その人の代わりに税務署への申告申請を行う。また、法人税や所得税など、種種の税金に関する相談を受け付けるのも主要な業務の一つであり、当然そこには相続税への対応も含まれる。こうした仕事は税理士の独占業務とされており、他業種の人間が引き受けることはできない。

たしかに相続税の申告は複雑で、提出書類も多岐にわたる。相続人がすべてこなすことは容易ではないため、税理士に任せる遺族も多い。これには、税金の計算などそもそも一般人にとってはなじみが無く、未経験であることからくる不安も一役買っていることだろう。

また、以前述べたように、相続税を払う可能性の高い人や、払わなくてはならないにもかかわらず納付していない人に対して税務署が働きかけ、税務調査を行うことがある。そこでは警察に家宅捜査のごとく財産を洗いざらい調べられるのだが、強制捜査と違って突然税務署の人間がやってくるわけではなく、税理士を通じて遺族に事前連絡がなされる。そのうえで、後日税理士立会いのもとおこなわれる。こうした場面でも、税理士は心強い味方となってくれるだろう。

さて、このように税理士は相続においても活躍してくれるはずなのだが、すべての税理士が、相続に明るいわけではない。国税庁の調べによると、2012年に亡くなった方約126万人のうち、相続税を納めた国民は5.2万人。半面、日本税理士連合会の発表では、税理士は同年で7.4万人を数える。通常の相続では一見の相続に複数の税理士が関わることはまずないため、1年間で、相続税に関する業務に一度も携わることのない税理士が数万人という規模で存在するということになる。

なかには相続税を専門とする税理士法人も出てきており、そうした団体は、年間数100件という規模で相続税の計算や申告を引き受けることもある。つまり、一部の税理士が相続を占有しているという状況が生まれつつあるのだ。こうなると、相続税に日々携わり、広い知見と確かな手腕を持った税理士の期待値はますます少なくなる。

こうしたことを踏まえるなら、いかに税務の専門家とはいえ税理士が相続に詳しいとは限らず、任せきりにしては危険だ問い言う主張が真実味を帯びてくる。さらに、税理士の線の役目はあくまで税金の計算と申告の執行であって、節税対策の手伝いではないことに注意しよう。たとえ相続人が、どうしたら相続税の負担が最も軽くなる家に気をもみ、なるべく納める税金を低く抑えたいと願っていても、その通りにしてくれるとは限らないのだ。

実際、相続税を申告する原因となる可能性が最も高い、つまり一般に財産としてもっとも価額が高いのは不動産とされるが、これに精通した税理士は少ない。土地はどう評価するか、またどう利用するかで評価額が大きく変わり、不動産を売却するにしても、その方法によって最終的に遺族が受け取るお金は激しく変動することは言うまでもない。このように、不動産は相続において大きなウェイトを占めるのだが、これに詳しい税理士が少ないとなると、税理士に任せきりにしていては、遺族に不満のない円満相続からはますます遠のいてしまうことになるだろう。

さて、ここで税理士に過度に頼ってしまったばかりに失敗することになった例をいくつかあげよう。

Aさんは父親を亡くし、相続に直面することになった。相続人は彼の他に故人の配偶者、3人のきょうだいがいる。父親は長年不動産賃貸業を営んでおり、顧問の税理士もいたため、相続税も彼に任せることになった。

ところが、いざ実務にあたってもらうと早速問題が出来した。件の税理士は他の顧客の確定申告に追われ、Aさん一家の相続税の申告に携わるゆとりが無くなってしまったのだ。しかも、相続税の申告期限(被相続人の死亡から10カ月以内)も迫っているというのに、税理士からの連絡は一向にいない。もちろん、税理士の方で業務を完遂させたというわけでもない。

不安に思った遺族は相続対策セミナーに参加したりインターネットを活用するなどして情報収集を開始したのだが、次第に依頼した税理士の手腕に疑問を持つようになった。まず、彼は不動産の現地評価を行っておらず、相続税の申告にかかる費用すら正確に把握していない。おまけに不動産評価額の計算方法すら間違えていたのだ(本来なら路線価で計算するところを、固定資産評価額×1.1で計算していた)。そこで問い詰めたところ、結局手続きは何も進んでおらず、進退窮まっていたことが発覚した。

当然その税理士とは手を切り、別の税理士に依頼し直すことになった。業務を完遂できなかったこともあり、最初の税理士に払っていた費用は返金してもらったのだが、もはや相続税の申告期限に間に合わせることは不可能だった。最終的に申告が遅れてしまい、一家は追徴金を払うことになってしまった。

もう一つ実例を挙げよう。Sさんは夫を亡くし、子供二人と三人で相続手続きすることになった。故人は小規模の株式会社を経営しており、事業は長男が継ぐことになった。経営が軌道に乗っていたこともあってSさんの夫には多額の遺産があり、自社株を含めれば相続税の基礎控除額は優に超えていた。
「相続のとき税理士は何をしてくれるのか?⑭」
会社にはお抱えの税理士がおり、税の申告等はその人に頼むことになったのだが、税理士の説明に、早速当惑する場面が出てきた。故人の所有していた土地は、路線価では一億円と評価されるものの、その税理士が言うには帳簿価額で評価できるとのことであり、その場合の価額は1,000万円。

あまりの違いを疑問に思った長男が別の税理士に相談したところ、故人の会社の規模を考えると財産は純資産評価をしなくてはならず、今回は路線価が適用されるとのこと。他の専門家に問い合わせても同様の答えが返ってき、最初に依頼した税理士の旗色が悪くなった。

例の税理士にそのことを話したところ、税理士は自分が正しいとの一点張りで譲らない。また、彼の能力に疑問を持った一家が依頼を取り消そうとすると、一度行った依頼を撤回するのなら、損害賠償を請求するとまで言い出す始末だ。

困ったSさんは結局、相続に詳しい行政書士とともに税務署を訪ねて事情を説明し、財産の評価方法について最終的な確認を行った。そこで得た回答は、やはり顧問税理士の計算は間違っているというもの。税務署の太鼓判を押されてはさすがの税理士先生も譲歩せざるを得ず、結局その依頼は打ち切り、他の相続の専門家に改めて手続きを頼むことになった。

この二つの事例からわかるように、日頃付き合いのある顧問税理士だからといって安易に相続の業務を依頼してはならず、この分野での実績を確認しなくてはならない。また、自分の非を認めないような、誠意が疑われる専門家に遭遇した時は、乗り掛かった船だからと引き続き依頼するようなことは避け、場合によっては乗り換えも辞さない覚悟で臨みたい。

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