遺言書相続財産遺産分割協議

遺言書を書いた方がいいのはこんな時

これまで遺言書の書き方、種類などを説明してきたが、全ての家庭に遺言書が必要という訳ではない。
今回は、遺言書がなぜ必要なのか、そして書いた方がよいのはどういう場合かを二回に分けて解説しよう。

まず、遺言書が無いとどうなるか。
遺言書に関する今までの記事を読まれた方は、こう疑問に思われることがあるかもしれない。

「相続はもめ事を防ぐ手段だというけれど、うちは家族仲がうまくいっているし、もめることはない。」
「自分はあまり相続に関心が無い。たとえ相続することになっても、家族が分けて余った分だけもらえれば結構だ。」
「親は元気なので、相続のことなどまだ考えなくてもよいし、そもそも遺言書を書いてくれとは言いだしづらい。」

こうした言い分には一理ある。
だが、遺産分割調停事件(遺産分割でもめた挙句、家庭裁判所にとりなしを頼むこと)の件数は増加傾向にあり、しかも相談者の大半は財産が5,000万円以下、つまり相続税の対象となるかならないかの、資産家でもない一般家庭だ。
また、たとえ今は遺族間の人間関係に問題はなくても、分けるのが困難な遺産があったり、一部の家族が故人と多額のお金の授受をしていたりといた場合、その処遇を巡ってトラブルが発生するというのもよくある話だ。たとえば…

「遺産は兄弟仲良く同額で分けようというけれど、我が家の財産は親の持ち家だけ。家なんて、どうやって同額で分けろというのだ。」
「私はお父さんが生きていた時、身の回りの世話をするために毎週遠くの実家まで通ったわ。財産を分けるときも、頑張った分は認めてくれたっていいのではないの。」

あなたのご家庭に、心当たりはないだろうか。
「財産額が少なくて、家族関係の円満な我が家には相続トラブルなど無関係」などと白を切ることはできない。

それに、たとえ遺産をどう分けるかについては遺族間で完全に合意がとれているとしても肝心の財産の内訳や総額を把握していなければ話し合いは進まない。
故人は株をやっていたが、保有株はどのくらいあるのか、預金はいくらあるのか、いやもしかしたら借金を抱えているかも……と調査しているうちに時は過ぎ去り、またたく間に三カ月がたってしまう。
これは遺産をどう受け継ぐかを決める期限であり、借金が多額なら相続放棄、プラスの財産ばかりなら単純承認といった選択肢のうちから一つを選ばなくてはならない、相続における一つのタイムリミットだ。

しかし、正式な遺言書さえあればここにあげた問題は快刀乱麻のごとく解決する。
というのも、遺産の分け方を故人が指定しておけば、遺族がその内容に不服でない限り原則としてそのまま遺産分割が行われ、話し合いと、それに相伴しうるトラブルを回避できるからだ。

また、普通遺言書には財産の内訳を記述するため、どこに、どういう財産があるのかと遺族が探し回る必要もなくなる。
このように、遺言書は作成者の死後の悶着や不都合を防ぐ上で、大変有効なツールとなり得るのだ。

これまでの話で遺言書がいかに大切かについてご納得いただいたとして、ではどういったご家庭にそれが必要なのか。
大きく分けて、

1.遺産の内容が不明
2.家族の一部が介護などで故人に貢献していたか、逆に開業資金や入学金で多額の援助をしてもらった
3.自宅以外に財産が無い
4.故人に離婚経験があり、連れ子がいる
5.特定の相続人が事業承継する

という5パターンがある。それぞれ解決策を見てゆこう。
「こんな時①」で述べたように、1の問題は遺言書で解決できるが、故人も人の子、ある程度まとまった額の財産を抜かしてしまうことがある。
明らかに特定の財産の記載が無いと疑われる場合、遺族がその財産の有無を調べることになる。
具体的には、名刺や携帯、郵便物など故人の人間関係を示す記録から取り引き先を見つけ、そこに問い合わせる(株式や保険の場合)、「個人情報信用機関」(JICCやCIC等)に情報開示を求める(借金の場合)といった方法が考えられる。
特に、借金は後ろめたさや恥ずかしさもあって遺言書にさえも公表しない方もいるので要注意だ。

2のように、特定の相続人が、故人とある種特別な関係があった場合、家庭裁判所に問い合わせて寄与分や特別受益を認めてもらう手がある。
だが、これには金銭の授受等があったという証拠が求められるうえ、相当の援助なり貢献なりがあったのでない限り難しい。
そこで、遺言書では、その分を考慮して財産を分けるようにすればトラブルは少なくて済む。
「五年間介護をした長女にはきょうだいより500万円多く相続させるものとする」といった具合だ。

3のケースにはどう対処するか。持ち家を売り、売却して得たお金を分割することもできるが、その住居に住み続けたい方がいる場合、それは難しい。
そのため、遺言書に「長男が自宅を継ぐ」と記載して、長男が自宅に見合うだけの財産をポケットマネーから出し、他の相続人に分けるといった方法(代償分割)が採用されることが多いようだ。
なお、故人が事業を展開していて、特定の相続人が承継する場合もその人は資産を受け継ぐことになるため、代償分割をすることがある。

最後に、連れ子に相続させるにはどうするか。
故人とは直接の親子ではないため本来は連れ子に相続権はないのだが、どうしても相続させたいという場合はやはり遺言書にその旨を記載することになる。但し、他の法定相続人(民法で認められた相続人。配偶者や血族など)には最低限相続できる額(遺留分)があり、それが侵されている、つまり連れ子が可分に受け取るようになっていれば、他の相続人は家庭裁判所に申し出て自分の取り分を主張することができる(遺留分の減殺請求という)。

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