相続税相続財産

相続税増税――なんのために?

今年一月より相続税の基礎控除額引き下げを含めた税制改正が実施され、話題を呼んでいる。
ところが、海を越えた英国では、逆に減税が行われる見込みなのをご存じだろうか。
英財務相は近く相続税の課税最低限を100万ポンド(148万ドル)に引き上げる方針なのだ。
課税最低限の引き上げにより、中間層の約2万世帯の税負担が減少し、税収は約10億ポンド減じるという。

相続税が減れば親世代から子への財産がより多く受け継がれることになり、相続人が得をするのはもちろん、被相続人にとってもメリットは大きくない。
日本では相続税法上、相続税は現金にて一括納付することが定めてあり、現金などの相続財産が多いご家庭ならともかく不動産などお金に換算しづらい財産によって相続税がかかることになった場合、税を納めるためだけにせっかくの財産を手放すことになりかねない。
また、故人が商店や飲食店などの事業を営んでいて、自社株など社の財産が多額にあるとすれば、場合によってはそれを売却して相続税を納めることになる。
しかし、特に自社株が人手に渡れば相続人の議決権は半減されるのは不可避であり、最悪の場合は社が人手に渡ることにもなりかねない。
反面、相続税がかからないとなれば財産は保持しておけることになり、結果被相続人が苦心の末積み上げてきた遺産は、残された者に無事継承されることになる。

このように、減税のメリットは容易に挙げることができるのだが、為政者でない我々にとって、増税は何かプラスになるのかと問われると、府と思い悩んでしまう。
だが、政府も無為無策で、単に懐を温めたいからというだけで増税に踏み切るのではないだろう。
たとえ税収を上げるために増税するとしても、そこには何か目的があるはずだ。では、具体的にどのような目的があるのか。

第一に、所得税の補完とすることがある。現行制度下では所得税の最大課税率は40%となっており、特に富裕層から徴収できる額が低めにとどまっている。
かといって、生存者には生活のためにある程度のお金は残しておかなくてはならず、所得税をいたずらに引き上げては生き馬の目を抜くことになる。
そこで、死後、もはや財産が必要なくなったところへ、より多く課税することで税収の不足を補おうというのだ。
参考記事:http://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN0MD0WM.html

相続税引き上げには、介護費用や医療費など、社会保険料の負担を清算してもらおうという狙いもある。
高齢化に伴い社会保険料は年々増大しつつあり、財政を圧迫している。
もちろん、政府はこの状況下、指をくわえているわけではなくすでに様々な対策を打ち出している。
中でも目につくのが年金の保険料の値上げであり、厚生労働省は、厚生年金は毎年0.354%、
国民年金は毎年280円ずつ引上げてきている。
それでも、生産年齢人口が減少の一途をたどっている今日、働き手から徴収するにも限りがあるし、あまり負担を増やしすぎて、首を絞めることになっては国の生産性が弱まり、結局政府自体が身動きを取れなくなる。
そこで、次善の策として、これまで介護保険などのサービスを享受してきたであろう高齢者の負担を増やそう、そのためには、彼らの死後に残る財産に課税するのが簡便な方法だと判断し、今回増税に乗り出したのである。

もちろん、介護保険や医療のサービスの質を担保し、より多くなるであろう高齢者に対し、今後もサービスを提供し続けるには一定の財源はやはりなくてはならず、それをサービスの受け手自身に負担させるのは理にかなっているように思われる。
また、現役世代に配慮し、所得税引き上げの代替措置として相続税引き上げを検討するのも理解できなくはない。
だが、相続財産は単なるお金ではなく不動産であったり社の財産であったりと、様々な形をとって現われうるし、それを失うことになれば、相続人は相続によって遺産を得るどころか、逆に損失を計上することにもなりかねない。

そのため、ただ相続税を引き上げて万事解決を期すのではなく、同じ増額という措置をとるにせよ、納付の条件を緩和するとか、基礎控除額を据え置きにして最高税率をより高く設定するといった、遺産の比較的少ない人により配慮した政策を打ち出すべきではないか。

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