相続財産

後継者選びはお早めに。でも、あせりは禁物

東京リサーチ商工リサーチは、ある驚くべき調査結果を発表した。
同社によると、2014年の社長の平均年齢は60.6歳で、オーナーが70代以上という企業が増加している。
そして、社長が高齢になるほど業績が落ち込み、パフォーマンスが伸び悩む傾向にあるというのだ。
この調査結果をもとに、望ましい事業承継のあり方を改めて考えたい。

我が国の高齢化が叫ばれるようになって久しいが、内閣府の調べでは2013年現在で高齢者人口(65歳以上)は、約3,190万人と過去最高を記録し、人口の4分の1以上を高齢者が占めている。
高齢者が増加するにつれて社長の平均年齢も上昇しつつあり、2014年には全体の22.5%、つまり五社に一社以上が70歳以上の社長のもとに活動している。
こうして経営者が高齢化すると、企業はどういった不利益をこうむるのか。

まず、新たなビジネスモデルを構築し、時代の変化について行くのが難しくなる。
たとえば、大手家具メーカー大塚家具の創業者(現会長)勝久氏は、かつて自分が構築し、成功したビジネスモデルにしがみつき、結果昨年度末は四年ぶりの赤字を計上することになった。
そこで娘の久美子社長が経営体制の刷新を主張し、親子でもめているのだ。
もちろん、若いからといって的確にトレンドを見抜き、時流に乗って栄える能力があるとは限らないし、逆に年齢が高くても先取性に富む経営者はいるだろう。
しかし、上記の調査から明らかなように、黒字企業は社長が30代以上のところに目立ち、赤字企業は高齢者が社長である企業に多くみられる。
このことから、若年層が経営権を握った方が業績は伸びるのではないか、という仮説はあながち棄却しきれまい。

第二のデメリットとして、経営者が高齢化してからだと、後継者を選出・教育する期間が短くなることがある。
言うまでもなく、経営者とは企業のすう勢を占ううえで最大の要となる人物のひとりであり、誰をその地位に付けるかということは、短時日のうちに決められるものではない。
また、たとえ後継ぎを早くから決めていたとしてもそれで安堵することはできず、その人物に、経営者たるにふさわしい能力を身に付けさせなくてはならない。
そのためにも、現経営者は早くから後継者を決定し、しかも実地訓練による教育に時間をかける必要がある。

とはいえ、あせりは禁物だ。たとえ次期後継者を早くから決め、教育を始めたとしてもその人物が不適格であったら元も子もない。
現経営者は数ある選択肢の中から最適解を選び、その後の状況にも気を配らなくてはならない。
つまり、肝心な作業だからこそ時間をかける必要があり、それゆえ早くから取り組むのが望ましいということだ。

では、具体的に誰に、どう後を継がせるべきか。
他の記事で述べたことに、新たな情報を加味しつつ説明する。

事業承継のパターンで最も一般的なのは親族内継承だ。
この場合、ポピュラーなだけあって社内外から順当な決定として受け入れやすく、また受け継ぐ本人の意思が早くから固まっていれば、早期に教育を開始することもできる(学生時代からアルバイトで下積みをさせる、等)。
さらに、M&Aなど社外から代表を抜擢する場合と異なり、企業内の身で共有したい情報を固守することができる。
そのため、たとえば老舗の料理屋がどうしても自分の店のレシピをもらしたくない、という場合、親族内継承は有効な手段だ。
反面、候補者が意欲的でなかったり不適格であったりした場合、別の候補を探す必要が生じるほか、親族が複数いる場合、一人が大きな財産を受け継ぐことになるため、財産分割の公平を期すのが困難になりうる。

一方、次の選択肢として考えられるのが社内に候補者を募るという手だ。
これなら親族内よりも選択肢の幅は広がるし、適任と思われる人物は、一般にその社での経験が深く、業務に精通しているため引き継ぎはスムーズに行われるだろう。
ただし、経営権を引き継ぐとは、ただ権利が移動することを意味するのでなく、社の財産、そして負債すら引き継ぐことにもなる。
そこで、後継者は自社株を買い取る資金があるのか、前経営者の債務を引き受けてくれるのかという懸念が生じる。

最後に、わが国ではまだ定着していないが、社外から次期代表を引き抜くのがM&Aだ。
こうすると前経営者は会社を売却することになるため収益を得ることができ、社内選出よりもさらに選択肢は拡大するため、真に適格と思われえる人材を、複数の候補から選ぶことができる。
しかし、前経営者の社員にとっては労働条件が変わることになることが多く、そもそも彼らの雇用が維持されるかどうかは売り手と買い手の交渉次第になってしまう。
また、自社株をはじめとする社の財産が期待通りの額で売れるとは限らず、売却に当たって費やした投資額が売却額を上回れば、当然売り手は損することになる。

ここにあげた三つの方法のメリット・デメリットを比較検討しながら、現社長には後継ぎをじっくりと見極めてほしい。

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